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最高裁判所第二小法廷 昭和31年(あ)685号 判決 1958年7月11日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人佐伯静治の上告趣意第一点及び弁護人柏岡清勝の上告趣意について。

憲法二八条は勤労者の団結権、団体交渉その他の団体行動権を保障しているが、この保障もかかる勤労者の権利の無制限な行使を許容し、それが国民の平等権、自由権、財産権等の基本的人権に優位することを是認するものではなく、従って勤労者が労働争議において、不法に使用者の自由意思を抑圧するような行為をすることを許容するものではないこと、同盟罷業は必然的に業務の正常な運営を阻害するものであるが、その本質は労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行にあり、その手段方法は労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させないことにあるのであって、これに対し使用者側がその対抗手段として自らなさんとする業務の遂行行為に対し暴行脅迫をもってこれを妨害するがごとき行為は、右同盟罷業の本質と手段方法を逸脱したものであって正当な争議行為と解することはできないこと及び被告人らの本件犯行は昭和二八年九月一五日になされたものであるが、昭和二四年法律一七四号により改正された労働組合法一条二項の規定も、同条一項の目的達成のためにした正当行為についてのみ刑法三五条の適用を認めたにすぎないものであって、勤労者の団体交渉においても、刑法所定の暴行罪又は脅迫罪にあたる行為が行われた場合にまで、その適用があることを定めたものでないと解すべきことは、すでに当裁判所大法廷の判例とするところである(昭和二三年(れ)一〇四九号同二五年一一月一五日宣告、刑集四巻一一号二二五七頁。昭和二四年(オ)一〇五号同二七年一〇月二二日言渡、民集六巻九号八五七頁。昭和二二年(れ)三一九号同二四年五月一八日宣告、刑集三巻六号七七二頁。各参照)。

原判決の是認した第一審判決の確定した事実によると、判示鉱山会社の人員整理に伴う企業整備反対斗争を有利に展開するため、同会社の労働組合員である被告人らが、執務中の判示文珠坑坑長小野信行及び同坑労務係長堀江武雄を強いてその各自室から判示角力場まで連行した上、爾後約三時間の長きにわたり、組合員数百名と円陣を作って取り囲みその脱出を不能ならしめた上マイクを突きつけて執拗に人員解雇の根拠等の釈明を要求し、もって右坑長らを多衆の包囲と威圧下において、その自由を拘束し、これを逮捕したうえ監禁したというのであって、かかる被告人らの所為は労働組合法一条一項の目的達成のためにする正当行為であると認めることができないことは前記判例の趣旨に徴し明らかである。されば、原判決には所論のような違法、違憲のかどはないから、所論は採用できない。

佐伯弁護人の上告趣意第二点は、事実誤認の主張を出でないものであって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。なお、第一審判決判示事実(有罪部分)は、挙示の証拠により十分認めることができる。

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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